サロス周期
同じような日食が約18年の周期で見られることが、古くバビロニアの時代から知られています。これをサロス周期と呼んでいます。その周期に属する次の日食は、経度において約120度西にずれた場所で起こります。今日でもこの周期は、日食の予報には欠かせないものです。
太陽が、白道(天球上に置ける月の通り道)と黄道(天球上における太陽の通り道)の交点を出発して、再び交点に戻ってくるまでの期間を、1食年と呼び346.62日となります。太陽は、この間に2回、白道との交点を通過します。その頃、月が新月(朔)であれば、日食が起こり、満月(望)であれば、月食が起こります。したがって1朔望月と1食年の最小公倍数を周期として日食が起こります。
223朔望月 | = | 29.5306日×223 | = | 6585.32日 |
19食年 | = | 346.62日× 19 | = | 6585.78日 |
すなわち、223朔望月が19食年に近いため、6585.32日ごとに日食が起こります。1年を365日とすれと18年と15.32日として定義されます。しかし実際にはその間に、5回、あるいは4回のうるう年が入ってくるので、その日数がマイナスされて、18年と10.32日あるいは18年と11.32日ごとに日食が起こることになります。小数点部分の0.32日は時間になおすと約8時間であり、これを経度に換算すると120度となります。次の日食が経度方向に120度西にずれて起こるのはこのためです。
1991年7月11日の皆既日食帯 | 2009年7月22日の皆既日食帯 | 2027年8月2日の皆既日食帯 |
サロス136番の最近の3つの皆既日食です。約18年ごとに経度方向に120度西にずれて同じような日食が起こります。 |
一方,月が近地点(月の軌道上において地球に一番近い地点)を通過し、再び近地点に達するまでの時間は、近点月と呼ばれています。これは、27.5546日であり、その239近点月が6585.55日となります。このため、月と太陽の距離もほとんど同じとなり、同じような日食が見られることになります。
このサロス周期には番号が付いています。たとえば2009年7月22日の皆既日食はサロス136番の日食となります。偶数のサロスの日食は降交点(黄道面を月の軌道が北から南へ横切る点)で起こり、奇数のものは昇交点(黄道面を月の軌道が南から北へ横切る点)で起こります。
サロス136番の日食を例にとると、ユリウス暦の1360年7月14日(現在使用されているグレゴリオ暦に変換すると7月23日)に部分日食として始まったものです。このサロスには全部で15の部分日食、6の金環日食、5の金環皆既日食、そして45の皆既日食が含まれ、2622年6月30日の小さな部分日食が最後になります。サロスの始から終わりまでは1262年間です。ひとつのサロスには70から85の日食が含まれ、1244年から1514年の間で継続します。
サロス136番の日食の中で、最も有名なものは32番目の日食です。これは1919年5月29日のもので、アインシュタインの日食とも呼ばれています。太陽の縁近くを通過する恒星の光りは、太陽の重力の影響を受けて、本来の進路から曲がるというアインシュタイン効果を、皆既日食の観測を利用して証明しようというものでした。そしてイギリスのエディントン等の遠征隊によって、そのような影響が存在するということが確認されたのです。
2009年の皆既日食は、このサロスの中で37番目の日食です。その前は1991年7月11日にハワイやメキシコで見られたもので皆既の継続時間の最大は6分58に達するものでした。また、次の日食は2027年8月2日でアフリカ大陸北部などで見られ、皆既の継続時間の最大は6分23秒です。