プラネタリウムの解説

現在のプラネタリウムの解説とは

  最近のプラネタリウムの投影番組は、大きく、一般投影、学習投影、幼児向け投影、その他の特別投影に分類できます。これは、プラネタリウムが設置されている館の設置趣旨によって異なるものです。中には、一般投影は土、日曜のみで、平日は学習投影のみの対応という館もあります。しかし、プラネタリウムの解説の基本は一般投影にあります。最もオーソドックスな投影とは、すでに閉館となってしまった「天文博物館五島プラネタリウム」の投影スタイルに見られたような、毎月のテーマを設定して、投影の前半部が星座を中心とした星空の解説、後半部がその月のテーマに沿って解説を進める投影です。まずは、このようなスタイルの投影において約45分から1時間、納得の行くような解説ができてから、学習投影や幼児向け投影の生解説をマスターするのが良いでしょう。

  しかし、最近のプラネタリウム館においては、オート番組の導入により、解説者が解説を行う時間が少なくなり、極端な場合は星空解説すらテープで行ってしまう館も多くなりつつあります。このような館においては、プラネタリウムの担当者の仕事から、解説の業務はなくなり、機器の操作や、トラブル対応などが中心となりますので、担当者としてのプラネタリウムの仕事の魅力は半減するでしょう。プラネタリウムの仕事を継続して続けたいと考えているなら、そのような館への就職は敬遠されたほうが良いでしょう。ただし、スキルアップの一環としてそのような館を経験しておかれるのもひとつの方法です。いずれにしても、基本である一般投影の解説をマスターし、学習投影、幼児向け投影、夜間等に行う特別投影など、すべての投影において、料金をいただいて、恥ずかしくないレベルで解説ができるようになっていることが理想的です。

  昔の投影に比較すると、投影における解説の話のテンポは、テレビのアナウサーやナレーションの傾向にも見られるように、多少テンポが早くなっているように感じられます。ただし、プラネタリウムの解説において重要なことは、そのようなテンポにおいても、話と話の間の「間」をしっかり取ることです。これを怠ると、単なる早口で話をしているだけで、プラネタリウム解説者の持つ独特の雰囲気をかもし出すことはできません。印象深い解説はできないでしょう。また、ライブで解説を行うわけですから、観客とのやり取りや、アドリブ、そして時折ジョークを入れて解説を行うのは当然です。これらがマスターできれば、質の高い解説が行えるようになるでしょう。

  水平ドームのプラネタリウムであっても、傾斜型ドームのプラネタリウムであっても、また、全天CGシステムを導入した最新のプラネタリウムであっても、解説の基本はすべて同じです。また、オート番組の絵コンテやシナリオを記述したり、あるいは自ら映像を制作する場合であっても、この基本をマスターしておかなくては、質の高い番組を提供することはできません。


フラットドームにおける解説
  ここで述べるフラットドームとは、昔からあるタイプのプラネタリウムのことです。すなわち、ドームの水平線(見切り線)が床面に対して平行な形状のドームを言います。水平ドームの場合は、座席の配列に2つのタイプがあります。ひとつは、投影機本体を座席が円形状に取り巻くタイプ、そしてもうひとつが、ドームスクリーンの一方向を向いて、放射状に配列されているタイプです。昔から設置されているプラネタリウムの多くは、前者で、最近になって設置されるプラネタリウムの多くが後者を採用しています。このどちらの方式もメリットとデメリットが存在します。すなわち、完璧な座席の配列という方式が存在しないということになります。

  前者は、同じドームの大きさに対して、座席の数がたくさん配置できます。ただし投影機をはさんで、解説者と反対側に座った観客は、多くの場合、解説者が示すポインターと、スライドやデジタル映像の多くをさかさまに見ることになります。後者は、同じドームの大きさに対しては、座席の数が少なくなります。特に、最前列の座席に座る場合は、投影されるスライドやデジタル映像の多くを間近で見ることになり、圧迫感があります。また、この場合、プラネタリウムの方角を南を観客の正面に持ってくることが基本であるため、北の空を見るとき、全員の観客が後ろを向きながら解説を聞くことになります。

  プラネタリウムで、初めて解説に携わる場合は、傾斜型プラネタリウムよりもむしろフラットドームにおいて、解説を始めたほうが入りやすいでしょう。しかし、前述したような座席の配列におけるメリットとデメリットを配慮しながら解説を行わなくてはなりません。ドームスクリーンが明るいうちは、円形状に配列される座席の場合は、観客の一部が解説者の方向を向いているため、解説の開始時点で緊張感が生じるでしょう。ただし、解説に対する観客の反応をつかみやすいことはメリットです。放射状に配列される座席の場合は、観客の全てが、解説者に対して逆の方向を向いていますので、はじめは戸惑うかもしれません。また、観客の反応を感じにくいでしょう。慣れてくると、観客の頭の動きなどから解説に対する反応を察知することができます。  投影機は、架台回転によってどの方向を観客の前に持ってくるかは、解説者次第ですが、基本的に南を正面にするのがベストです。それ以外の方向を正面に持ってきて開始することは、お勧めできません。南を正面にして解説しつつ、北の空を解説する場面で、架台回転により北を正面にする方法もありますが、その時点で南の空の星座をさかさまに見ることになり、星座の線の結び方に慣れていない観客は、わけがわからなくなってしまいますので、多少の見ずらさはあっても、星空の解説が終わるまでは、架台回転を使用して、方位の向きを変えることはお勧めできません。

  フラットドームにおける解説台(コントロールコンソールとも呼ばれます。)は、通常、設置されている建物の本来の北の方向に置かれますが、建物の事情により必ずしもそうはなりません。架台回転機能のついたプラネタリウムの場合は、解説台が北の方向になるように、架台を回します。この場合、解説台は真北ではなく北からやや東側にシフトした位置になるようにするのが一般的です。これは、解説者が北極星を説明するとき、ポインターの指しやすさを配慮したものです。新規でプラネタリウムを設置する場合は、この点に注意すべきですが、多くの場合、特に指示しなくてもメーカーのほうで把握しているでしょう。

 平成13年3月に閉館した天文博物館五島プラネタリウムでは、当時、場内の説明が終わると、ドームの水平線に広がる、建物の屋上から見える景色の説明をしながら方位の説明を交えていました。景色そのものが古い時代からのもので、地方から見に来る観客にとっては、大変珍しく、また伝統を感じさせる内容でした。地上のシルエット、すなわちスカイラインと方位の説明は、ドームの案内が一通り終わったあとに行われるのが一般的です。しかし、今一度、観客の立場にたって考えたとき、果たしてこの手順がふさわしいかどうかは、多少疑問が残るところです。なぜなら、ほとんどの観客が、そのプラネタリウム館のある場所から星を見ることがないからです。星、あるいは太陽などを利用して地上の方位を確認するのが、観客にとってわかりやすい解説の手順ではないでしょうか。それぞれの観客が住んでいる家では、地上の方角は多くの場合、認識しているでしょう。しかしながら、空の暗い場所で星を見る場合は、やはり太陽の沈む方向や、星から地上の方角を調べるのが一般的です。

 したがって、私の場合は、最初に地上の景色と方位を説明する手順をとったことはありません。地上の景色は、最初に説明しますが、そこで方位を説明することはありませんでした。
  話はそれますが、星空の解説に使用される地上の景色は、そのプラネタリウム館から見た景色が使用されるのが一般的です。しかし、前述したとおり、多くの場合、プラネタリウムで再現されるような星空が見られる場所は山の上であったり、野原であったり、海の近くであったりしますから、そのような情景を連想させる景色を投影してもかまわないと考えます。また、それらの景色に加え、たとえば海の近くであれば、波の音などが効果音で流れていれば、さらに臨場感を盛り上げることができるのではないでしょうか。


傾斜型プラネタリウムにおける解説
  傾斜型プラネタリウムにおける解説は、フラットドームにおける解説といくつか異なる点があります。基本的な解説の方法は、変わりませんが、ドームスクリーンが傾斜しているために、いつくか配慮しておかなくてはならないことがあります。傾斜型プラネタリウムにおいては、投影機に必ず架台回転の機能が装備されています。星空の解説時において、南を正面に持ってくると、北はドームスクリーンの一番後ろになり、スクリーンが30度くらい傾斜していると、最悪の場合、空調のダクトなどの影響で北極星がドーム上には見えなくなります。このため、傾斜型における解説は、はじめは西を正面に持ってきて、太陽を沈め、星が出てきたら最初に北極星の見つけ方を説明します。次に、おおぐま座やカシオペヤ座など北の空に見られる星座を解説した後、架台をゆっくり動かし、南を正面に持ってきます。ここで南の空を解説するという手順になります。一連の星座を解説した後、オート番組につなげるか、あるいは、そのまま生解説を継続する場合は、そのまま日周運動を行い、太陽を昇らせて終了します。この場合、再度架台を東に動かし、正面から太陽を昇らせることもありますが、ここまで頻繁に架台を動かすと、観客はかえって混乱し、星の日周運動を素直に理解できなくなる恐れがありますので、架台回転を多用するのは禁物です。

 ポイントは、見にくい北の空をどのような手法で解説するか、架台回転をいかに最小限にとどめて、日周運動を理解しやすくするかの2点です。

  もうひとつ配慮しておきたいことは、観客が階段状の座席に座っているという点です。解説台は階段状の座席のある床面の一番奥、すなわち、一番高いところにあるのが一般的です。館によってはそれが中央ではなく、サイドにシフトしている場合もあります。どちらにしても、最前列に座っている観客の反応は、首の動きなどからはわかりません。このため、解説者は観客の反応を、解説台の近くに座っている観客の動作から読み取るか、あるいは、観客全体がかもし出す「空気感」のようなものから察知するしかありません。この「空気感」を察知することは初心者には説明すら難しいもので、解説の場数を踏んだ解説者の勘のようなものです。しかし、言葉で表現しにくいこの感覚が実は、解説を進める上において、もっとも大切なもののひとつになります。

全天CGシステムを併用した解説

  デジタルカメラの普及に伴い、カメラの世界ではフィルムの需要が急速に減少しました。このためスライドフィルムを使用する機会も少なくなり、その影響でスライドプロジェクターの製造を中止を余儀なくされるメーカーが続出しました。これらを背景として海外で普及した、ビデオプロジェクター数台で構成する全天CGシステムが、国内のプラネタリウム館にも導入されるようになりました。

  このシステムの導入により、プラネタリウムの投影内容がこれから大きく変化しようとしています。このシステムの登場は、いろいろな意味でプラネタリウムの投影とは何かを考えるきっかけになるのではないかと考えられます。なぜなら、このシステムで投影される映像は、ドームスクリーン全体を覆い尽くすような動画映像が中心であり、アイマックス・ドーム(オムにマックスと呼ぶ場合もあります。)をはじめとする、全天周映画と区別がつかなくなる恐れがあるからです。現に、全天周映画のコンテンツをデジタル化して、全天CGシステムで投影する動きが出てきています。またその逆に、全天CGシステム用に制作されたコンテンツを全天周映画で上映しようとする動きもあります。

  このようになってくると、果たしてプラネタリウムの映像とは、どのような内容を投影するのが適切か、プラネタリウム担当者がしっかり認識しておく必要があります。観客の多くは、プラネタリウムに星空を求めて見に来るはずです。そこで、星にまったく関係のないコンテンツを見せられたらどうでしょうか。もちろん、そのようなコンテンツを投影する機会も必要でしょう。しかし、基本はあくまでも星や宇宙をテーマとしたものでなくては、もはやプラネタリウムとは呼べなくなるでしょう。これは、フランス料理を食べに行って中華料理が出てくるようなものです。フレンチレストランで最初から、今日は中華料理ですと断っておけば、問題はないでしょうが、何か釈然としない思いに駆られるのではないでしょうか。

  全天CGシステムにおける、コンテンツは従来のオート番組の位置付けです。スイッチを押せばあとはコンピューターが勝手に映像を流してくれるでしょう。解説者はハードウエアのどこかに異常が生じていないかどうかをモニターし、トラブルが起きたらそれに対処することが、映像を流している間の主な仕事になるでしょう。しかし、私はこれからのプラネタリウムにおいては、この全天CGシステムを積極的に生解説に生かすことこそ、今後のプラネタリウムの活性化の重要なポイントであると考えています。

  今までのプラネタリウムにおける生解説では、星空の解説は別として、天文の話題等の解説では、スライドやデジタル静止画が使用されていました。これらは、解説者が自らの解説に合わせて、画像をチェンジするのです。すなわち、映像を変えるタイミングは、解説者が握っているということです。しかし、これからの全天CGシステムを生解説に導入するという考え方においては、映像はドームスクリーンを覆い尽くす動画が中心であり、その動画に合わせて解説を行うという、従来にも増して高度なテクニックが解説者に要求されるのです。しかし、これをマスターして、投影を行えば、今までにないダイナミックでしかも説得力のある解説と、映像が展開できるのではないでしょうか。

  私は、このようなプラネタリウムの投影を夢見て、現在でも、そのためのCGコンテンツを制作中です。これからのプラネタリウム館の多くにこのようなスタイルで投影する館が増えることを願ってやみません。