天の川


 7月の休みを利用して尾瀬に行ったときのことである。夕方水戸を出発したのだが、途中で雷雨に襲われ、おまけに悪路を1時間近く走ったので、向こうに着いたのは、確か夜の12時を過ぎていた。
 車から降りて、いつもの調子で空を見上げたが、思わず「ウォー!」と声を出してしまった。全天を覆っていた雨雲はいつの間にか姿を消して、夜空は見渡す限り星だらけである。こんな鮮やかな天の川を見たのは、生まれて初めてである。さっそく仲間を相手に「あれがナニ星で、これがカニ星で・・・」と始めたのだが、皆は「また始まった」というような顔つきで、「フーン」「ヘー」とうわのそらである。それにしても、降るような星空とはあのような夜空のことをいうのだろうか。梅雨明けの時期で、雨上がりの空に見えた星の光が、私にいっそう新鮮な印象を与えてくれた。
 夏の夜空にかかる雲のような光の帯を見て、古代人達は、天に流れる川だと考え、天の川と呼んだ。また西洋では、天にこぼした白いミルクにみてミルキーウェイ、中国では銀河といった。
 この天の川に望遠鏡を向け、天の川が無数の星の集まりであることを最初に見やぶったのは、有名なガリレオであった。
 夜空の星は無限である。数えることなんてとてもできない。しかし、そう考えるのは素人の何とかで、実際に数えた人物がいるのである。1781年に天王星を発見して一躍有名になったウイリアム・ハーシェルがその人で,彼は何と、空に見えている星をくまなく数えて、天の川になぜ星が集まっているか、その秘密を解いてしまったのである。
 現在の天文学では、天の川の真ん中には直径2万光年の星の大集団があり、その周りに星が渦を巻いて群がり、その大きさは10万光年、横から見ると凸レンズのような形をしていると考えられている。このような星の大集団を銀河系と呼び、太陽系もその一員で、中心から3万光年のところにあることが知られている。

 よくもののたとえに、たくさんありすぎて数えられないことを「星の数ほど」というが、もし皆さんの中で暇な人がいたら、星の数を数えてみたらいかがだろうか。もしかしてハーシェルのような大人物になれるかも!


(「ミニマガジン水戸」に20代前半(1977年頃)に連載していた星に関するエッセイ「続星雑記−その1−」です。原文のまま。)