皆既日食のとき何が見えるか
空が夕方のように暗くなります。
皆既食のときには、空が暗くなります。太陽が60パーセントくらい欠けると、快晴のときでも空が青空から鉛色になります。太陽が99パーセントくらい欠けると空が急激に暗くなります。
空の暗さは、夕方の太陽が沈んで30分から1時間くらいあとの状態と同じですが、空の暗さの急激な変化に目が対応できないためか、時計の文字盤は見えません。まるで闇夜がどこからともなくすみやかに忍び寄ってくるような感じで、なんとも言い知れない緊張感を体験します。また、地平線付近が夕焼けのような色に変化します。ただし日常的に目にする夕焼けの色とは微妙に異なります。
2006年3月29日の皆既日食の空の様子です。地平線付近の空の色が夕焼けのようになっています。また、ピラミッドの上に金星が見えます。(ピラミッドは合成です。) 16ミリ対角線魚眼で撮影(写真提供:秋田勲氏) |
ダイヤモンドリングが見えます。
太陽が月にすっかり隠される直前に、月の谷間から太陽の光が漏れて、ダイアモンドリングが見えます。これは皆既日食が終わる直後にも見えます。皆既食のはじめの、このダイヤモンドリングが消える瞬間を第2接触と呼んでいます。また皆既食の終わりを第3接触といいます。
ダイヤモンドリング |
星が見えます。
太陽の近くに、水星や金星などの明るい惑星が見えます。また星座を形づくっている明るい恒星の中で1等星と呼ばれる星星のいくつかが見えます。太陽のそばに星が見えるのは、きわめてすばらしい光景となります。
(上の皆既中の空の様子の写真に金星が見えています。)
プロミネンスが見えます。
ダイヤモンドリングが見えると同時に、彩層と呼ばれるピンク色の層が数秒間見えます。そこからプロミネンスと呼ばれる太陽の炎のようなものが立ち上がっている様子を見ることができます。皆既日食の終了時にも同じように見ることができます。プロミネンスは皆既日食以外では、特殊なフィルターと取り付けた望遠鏡を使うと見ることができますが、フィルターの色が反映されてしまうため、本来の色で見えるのは皆既日食のときだけです。
皆既日食時のプロミネンス |
こちらは普段の太陽を特殊なフィルターを通して見たときのプロミネンスです。 1976年11月15日撮影 |
太陽コロナが見えます。
太陽が完全に月に隠されると太陽のコロナが見えます。コロナグラフという高価な装置を高山に備えた施設でなければ、普段は絶対に見ることができません。太陽から四方、八方に延びる無数の流線の美しさは、見た人でなければわからない光景で、著名なエッセイイストでさえも、文章ではその美しさは表現できないとしています。
写真に良く写りますが、肉眼で見た光景を表すことは無理です。特殊な画像処理を行うことにより、最近では表現ができるようになりましたが、肉眼には及びません。
太陽コロナ |
太陽コロナの拡大(内部コロナ) |
シャドーバンドが見えます。
皆既日食の直前、直後に地上の白い壁や、地面などにシャドーバンドと呼ばれる現象が現れます。日本語で影帯(えいたい)などと呼ばれますが、どうしてできるのかその実態は良くわかりません。陽炎などと同じ現象であるという科学者もいます。写真に撮影するのは難しいくらい淡いものですが、最近の高性能のビデオによって、撮影ができる場合があります。
本影錐が見えます。
太陽によって作り出される月の影が大気中に投影され、それを地上から見上げるものです。皆既日食の直前、直後に見ることができますが、太陽のコロナや惑星、プロミネンスなどに気を取られて、注意しないと見逃してしまう現象です。初めての方には説明しても、現象そのものを理解するのが困難かもしれません。
全てが短時間のうちに同時進行で起こります。
上記で説明した現象のほとんどが皆既食になる直前から、皆既食の終わる直後まで同時進行で起こります。通常の皆既日食では、皆既の継続時間が3分前後のものが多いため、あっという間の出来事になり、全てを冷静に観察できるのはベテランに限られます。
生涯の記憶に残る体験。
皆既日食は3分程度の時間で終了しますが、それは、私達が目にする自然界の現象の中で最も荘厳で壮大なものといえるでしょう。これは、どんなに文章で説明しようと、その場にいた人でなければ、その鳥肌が立ち全身が震えるような感動を共有できません。人間の一生の中ではきわめて短い時間ですが、それは一生忘れることができない数分間となるでしょう。