ドームに上がった風船のとり方


 以下の文章を読む前に、皆さんだったら、プラネタリウムの丸天井の中央に上がってしまったヘリウムガス入りの風船を、短時間のうちにどのようにしてとればよいかを考えてみてください。その方法は、なかなか思いつかないと思います。しかしこれは、コロンブスの卵的な発想で、タネを明かせばなんだそんなことかと思うに違いありません。しかし、プラネタリウムの現場に勤務する者はこの方法を頭に入れておくと、必ず役に立つときが来ると思います。

 プラネタリウムという施設は、その性格上、こどもたちが多く集まる場所です。特に日曜日などは家族連れでにぎわいます。私が以前勤務していた宮崎市のプラネタリウムでは、同じ建物の中にショッピングセンターや大小さまざまな店が集まっている関係上、イベントが多く行われていました。このため、集客目的で、こども達に風船をプレゼントすることが良くありました。自分のこどもが、それをもらって悪い気がする親はあまりいないと思います。かくいう私も、こどもたちが小さい頃には、率先して風船をもらっていました。特に、ヘリウムガスの入った風船は、こどもたちが大好きです。しかし、これはバスや電車、そして他のさまざまな場所で人様に迷惑をかけるケースがあることも事実です。また公害の観点から話題になることもあります。

 プラネタリウムに、このような風船を持ってこられた場合は注意しましょう。万一、プラネタリウムのドームの中で、こどもの手からこの風船が離れたとしたら・・・。ここまで述べれば、その結末がどうなるのかは、簡単に推測できるでしょう。ドームの中央部の一番高いところ、すなわち天頂と呼ばれる場所に風船が上がってしまうのです。このケースで一番被害が大きいのは、水平ドームでプラネタリウム投影機を椅子が放射状に取り巻いているタイプ、次が同じく水平ドームで、椅子が一方向に向いて並んでいるタイプ、そして最後が傾斜型プラネタリウムの順番です。

 たとえば、水平ドームの放射状座席で、天頂に風船が上がってしまった状態で投影を開始しなくてはならない状態を想像してみてください。実に困惑した解説者の姿が目に浮かびます。

 では、このように上がってしまった風船は、どのようにすれば、次の投影時間までの、短い間に取ればよいのでしょうか。準備するものは次のとおりです。

 1 もうひとつの風船
 2 天頂まで届く少し丈夫な軽い糸
 3 幅の広いセロテープ

 これらの道具を見れば、どのようにして取ればよいか、もうお分かりでしょう。ご推測のとおり、もうひとつの風船の頭にセロテープを貼って(セロテープの接着面を表にした丸いリングを作り、片側の面を風船の頭に接着しておきます)、糸で上に上げて、天頂の風船をセロテープのもう一方の面に接着させて、それを静かに下ろすのです。

 これは、少しばかり熟練を要します。また、プラネタリウムのドームサイズが大きくなればなるほど、糸の重みで風船を操るのが難しくなります。うっかり、天頂の風船をそれて、自分の上げた風船がスクリーンに貼りついてしまうと、大変です。足場を組まないとはずせなくなってしまうでしょう。これはこれで大きなリスクを伴うので、きわめて慎重に作業をしなくてはなりません。また天頂に風船を上げていくには、部屋の中央に自分がいなくてはいけないのですが、その場所はプラネタリウム投影機が占領しています。したがって、投影機の架台の上に登ってそこから天頂に向けて風船を上げていくことになります。

 観客の風船が、ドームスクリーンに上がってしまうことがまれにしか起こりませんし、多少の熟練を必要とするところから、ドームスクリーンに上がってしまった風船をとることにかけて、私の右に出るものはいないでしょう。でも、こんなくだらないことを長々と自慢げに説明するより、入り口で風船を預かったほうが良かったりして・・・

 ちなみに、いままでプラネタリウムで、何度かこのような難題をクリアーしたことがあります。そう、そのような日は私は職場の英雄だったのです。


「プラネタリウム会報1991年Vol20 No.2に記述したものをベースに、修正、加筆しました。