はじめに

  私がプラネタリウムの仕事についた頃、プラネタリウム施設は各県に1施設がある程度でした。例外的に東京都や神奈川県には数館が存在していました。たとえば、神奈川県では神奈川県立青少年センターと川崎市立青少年科学館です。各館の設置趣旨により多少の差はありますが、当時、プラネタリウムの仕事といえば、プラネタリウムの解説、解説用のスライドの制作、機械のランプの交換などの日常のメンテナンス、入場者に配布するパンフレットの制作などが中心でした。そのほか、天文台施設があればその運営や、天文に関する問い合わせの対応などです。

 その後、プラネタリウムの仕事は、ハードウエアの進化に伴い徐々に増えていきました。当時、投影機は手動で動かしながら解説を行うのが当たり前でしたが、その後、自動演出機能が加わりました。それに伴い、投影機の制御プログラムの作成などの仕事が加わります。スライド映写機の台数が増え、それらも自動制御が可能になると、すべてをオートマチックで制御するようになります。この頃になると、プラネタリウムの投影スタイルは大きく変化し、それまでの解説中心のスタイルから、すべてのハードウエアをフルに活用したダイナミックな自動演出の番組(現在ではオート番組という言葉で呼ばれることが多いようです)が主流となります。ただし、その頃でも解説中心の投影スタイルにこだわる館も多く存在したことも事実です。

  この頃から、プラネタリウムの仕事に番組制作が加わります。ただし、当時、そのために絵コンテを描く館はなく、ほとんどが、シナリオを起こし、それをもとに作画を行い、録音し番組の入れ込みを自分たちで行うというスタイルでした。予算の関係から作画はプラネタリウムのスタッフ自らが行う館が多かったように思います。作画の能力があるかどうかは、当時のプラネタリウム館の実力を示す一つの要因となっていました。

  1984年に登場した傾斜型プラネタリウムは、いろいろな意味でプラネタリウムの普及に拍車をかけました。当時のバブル期の勢いに乗って、各市がプラネタリウムを含む施設の設置を行ったためです。

  すでにその頃までに、プロジェクションギャラリーに数10台のスライドプロジェクターを備えた大掛りなマルチスライドショーを併用したプラネタリウム番組は、サンシャイン・プラネタリウムをはじめとして取り組みが行われていました。しかし、傾斜型プラネタリウムでは、さらにそれが進化し、スライドプロジェクターから投影される画像は高画質化し、またスカイライン(パノラマ)投影機から投影されるスカイライン(水平線上の景色)も多様な表現が可能なハードウエアが準備されていました。機器のすべてが、それまでのプラネタリウム番組をベースとしながらも、よりダイナミックな「宇宙ショー」的な番組を投影することができるような環境が整っていました。

  当時、プラネタリウムの番組制作は、すでに分業化されており、シナリオ制作、作画、録音などのパートに分かれていました。プラネタリウム館側は番組を発注し、それを受けたプロダクション側が作画や、録音、番組入れ込みなどを行うスタイルが主流となっていたのです。しかし、これらのポテンシャルをフルに発揮し、ダイナミックな番組を作るためには、発注を行うプラネタリウム館側が、シナリオを書くだけではなく、イラストレーターや録音を担当するスタッフなどに、番組のイメージをより正確に伝える必要があったのです。そこで、私の場合はプラネタリウム番組の世界に絵コンテを描き、それからシナリオを記述する手法を取り入れました。この原型は、すでに宮崎時代にその基礎ができていたものです。それらは、折に触れてプラネタリウム業界の機関紙である「プラネタリウム会報」に、番組制作の具体例をたびたび寄稿したため、その後はプラネタリウム番組において、絵コンテを描くことは、番組制作の手段の一つとして一般化しました。

  最近になってプラネタリウムの世界にまたひとつの大きな変化の波が押し寄せました。そのきっかけはカメラの世界から始まりました。カメラの世界は今ではデジタルカメラが主流を占めています。スライドプロジェクターを多数備えたプラネタリウム館が一般的になってきた頃、カメラの世界では徐々にデジタル化が進んでいました。この影響でスライド映写機の需要が減少し、最終的には世界のスライドプロジェクターの定番であるコダック社までもがプロジェクターの製造を中止してしまいました。このため、パーツの供給がなくなり、プラネタリウム館においてスライドプロジェクターが故障したときに、修理ができないという事態が起きてきたのです。これは、現場のプラネタリウム関係者にとっては深刻な問題でした。

  その頃、スライドプロジェクターに取って代わり、高価ではありましたが、ビデオプロジェクターが普及するようになりました。ただしプラネタリウムにおいて使用するには、リアルブラック(ドームスクリーン上で黒がダークグレーで表現されるため、ダークグレーの四角い枠が映ってしまい臨場感が損なわれる)が表現されないため、高価な3管式のビデオプロジェクターを6台ほど使用し、ドームスクリーン全体をビデオ映像(厳密にはコンピュータの画面をそのまま投影します。魚眼レンズで撮影したような動画映像を6分割して、それを6台のプロジェクターからそれぞれいっせいに映し出すことにより、ドームスクリーン全体に魚眼レンズで撮影したような動画映像を投影します。)で覆い尽くす、全天CGシステムが普及し始めていました(アメリカなどではオールスカイビデオシステムなどと呼ばれています)。これはしばらくして日本国内にもシステムが導入されるようになり、現在ではスライドにとって変わろうとしています。このため、プラネタリウムの仕事の中に、このようなデジタル映像を扱う仕事が加わってきたのです。

  このほか、プラネタリウムに関連する業務として、一般市民からの天文に関する問い合わせの対応、天体観望会、プラネタリウムを使用した音楽家とのコラボレーションによるプラネタリウムコンサートなどのイベントなどがあります。

  このコンテンツでは、これら、プラネタリウムに関係するすべての業務について、私なりの方法を説明します。これからプラネタリウムの世界において仕事をしてみたい、あるいはすでにプラネタリウムの仕事についているが、さらに勉強したい、という方たちの参考になれば、また、観客としてプラネタリウムをご覧になる方には、解説者がどのようなことに注意を払って話をしているか、また番組制作の舞台裏はどのようになっているのかなどを理解していただき、プラネタリウムに対する興味をより深めていただければ幸いです。

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